異常学園~アビリティエ~ #1-2
#1-2「異常学園(アビリティエ)へようこそ」
学園の廊下を二人の少女が駆け抜ける。
「ねえ、さやかちゃん…彼女ってどんな子?」
彼女…今、二人が向っている教室にて騒ぎを引き起こしたであろう少女のことだ。
因は彼女の後姿を見ただけで名前すら知らなかった。
「私は詳しく知らないわ。でもブー太から借りたこれならあるよ」
そう言いながらさやかは一枚の紙を見せた。そこには一人の学園生徒のプロフィールが記載されている。
顔写真が貼ってある。黒い髪に黒い制服…載っていたのは彼女だ。名前欄には「横浜港未来」と書いてある。
「『よこはま』…『みなとみらい』?」
「『おうひんこう きたらず』よ。港までが苗字らしいわ」
因はその不思議な名前に少し驚き、すぐに何かを考えてていた。
「…きたらず…」
―教室2-G前
「ここから声が聞こえたわ…」
「中でざわめいてるね…初日からちょっと怖いよ…ふぅ」
因が一息つき、心構えを整えようとしていたその時、
ドガァン!!
重い衝撃音が教室の中から轟くのが聞こえた。
「わぁっ!爆音!」
猛烈な音に驚きを隠せない因。
「暴れているようね…入るわよ」
さやかはじっとりと微笑むと、扉をしっかりと開けた。
中を見てみると、中央にはあの黒い制服の少女が立っていた。教室内周辺は机や椅子が散乱しており、所々にひびが入っていた。他の生徒は机などの物陰に隠れて怯えている。
「…何これ……」
彼女が一人でここまでやったのか…?因はその悲惨な光景に目を疑った。
廃墟のようになった教室に因が愕然としている横で、さやかは暗く微笑みながらそこにいる黒い少女・未来に語りかける。
「ずいぶんと派手にやってるわねぇ…」
「…あんたは誰だ?」
未来がさやかを睨みつけて威嚇をする。
「私は爽やか系風紀委員長さやかちゃん。騒動と聞いて駆け付けたのよ。一応あなたの事は色々聞かされてるわ」
さやかは顔色一つ変えずに微笑んだ表情のまま淡々と話を続けた。
「転校生さん…いえ、未来さん…どういうつもりか知らないけど、これ以上この学園で暴れるのだったら私が黙ってないわよ?」
その言葉をきいた未来は強張った表情のまま、体をさやか達の方に向けた。
「ふぅん…黙ってない、と?じゃあどうするつもりだ?」
「ちょっと痛い目見てもらうわね」
「ふ~ん…痛い目ねぇ?じゃあやってみな…できるもんなら!」
未来がそう叫ぶと、彼女の足元の床がボコンと鈍い音を立て、まるで何かで押しつぶしたかのように大きく抉れた。それと同時に、周囲にはいくつもの亀裂がピシピシと入りだす。
「私は普通の人と違っててね…自分の体重を好きなだけ操られるんだ…。この力のおかげで私は喧嘩で負けたことはない……だから…私は学校の中で常に頂点だった…!学校を牛耳っていた…!それなのに突然!私は無理やり転校させられた!この能力があるからって理由でだ!」
「……」
「私は折角の地位を崩された…ぶち壊されたんだよ…!だから…その報復に!この学校の風紀とやらをぶち壊してやる!この学校ごとぶち壊してやる!!そして前の学校のように!私が頂点に立ってやる!!」
未来はそう高らかに叫びながら、ズシン、ズシンと鈍い音を立ててさやかの方へと歩く。
しかしそんな威嚇にも微動だにせず、さやかは微笑みながら眺めていた。
「てめえ…!!」
その微笑みを挑発と受け取ったのか、未来はさらに激情し、さやかに拳を思い切り振り下ろした。
「フフ…ここで頂点を取るだなんて…傲慢ね」
さやかがはそう言いながら未来の攻撃を軽々と避ける。
「…っ!」
2回、3回と何度も攻撃を繰り出すが、すべて避けられる。空振りした攻撃は壁や机にあたって衝撃音を鳴らす。
「こいつ…!でも、避けているだけじゃあどうしようもないぞ!!」
未来は足を高く上げ、かかと落としの体制に入る。因はその動きから、彼女が先ほどから校舎を破壊しながら戦っていることに気が付いた。
さやかも同じく気が付いたようで、あのかかと落としを床に当てられたら容易く穴が開いてしまうことも予測できていた。
「さやかちゃんっ…!」
因が思わず声を上げる。その時、さやかはすばやく未来の上げた足を掴んだ。
未来の『能力』は体重の増減操作。その能力で強化されたかかと落としなど、一少女が掴んだからと言って抑えられるわけがない。
しかし…
「な…に…!?」
未来の足は振り下ろされなかった。否、振り下ろせなかったのだ。
未来はわけがわからず、焦りの表情を見せる。
「さすがにここを潰させるわけにはいかないわ…風紀委員だもの」
さやかは足を抑えたまま、未来の顎に向けて掌底を打ち込んだ。
「ぐあぁっ!!」
ドゴン!と重苦しい音を立てる。
ドガシャァーン!!
大きく吹き飛んだ未来は轟音ともに教室の壁に叩きつけられた。
その光景を見た因は目を丸くする。それを横目に、さやかは未来に向けて微笑みながら話しかけた。
「いいことを二つ教えてあげるわ…あなた以外にも能力を持つものはたくさんいるのよ。そして、ここは学校じゃなくて学園よ」
未来は全く動かない。聞こえているかさえ定かではない。
しかしさやかはそんなことには気にもとめず、後ろで緊張のあまり硬直している因へと語り掛けた。
「驚かせてごめんね…でもそのうち慣れるわ」
「慣れる…!?」
こんな事案が何回もあるのか…因の表情がさらに硬くなり、脳裏に不安がよぎる。
さやかはそんな彼女を見て微笑みながら、最後にもう一度口を開いた。
「それじゃあ因ちゃん、あらためまして…異常学園(アビリティエ)へようこそ…」
続。