異常学園~アビリティエ~ #2-3

#2-3「大きな声と鬼ごっこ」

 

「くそっ!しつこいやつだなオイ…!」

エルリーナは未来に追われながら静かに暴言を吐く。そうしているうちにふたりの距離は歩幅の違いからか少しづつ縮んでいった。もちろんそんな簡単に捕まるエルリーナではない。

「ここが人の多い廊下で助かったぜ…!」

彼女がそうつぶやいた瞬間、未来の目の前にふらりと他の生徒が飛び出してきた。

「うぉっ!?邪魔だてめぇ!」

未来はぶつかりはしなかったものの、足を止めてしまい、大きく距離を離されてしまう。

「フフ…人の盾を作るのは得意なんだぜ…!?」

エルリーナは調子に乗った発言をしながらどんどん遠ざかっていく。また追いかければそのうち距離も縮まるであろうが、その時にまた生徒を使って妨害されてはらちがあかない。無関係な生徒を傷つけるわけにはいかない以上、さやかが居ない場所で彼女にふたたび生徒の山に埋もれらてしまっては未来だけではどうすることもできないだろう。

「何かいい解決策はねぇのか…!せめてアイツの操る能力を事前に止められれば…!」

未来は必死に考えた。しかしなにも思いつかない。力のごり押しですべて解決してきた彼女には戦い方を考えることなどできないのだ。

「ちくしょう…!こうなったら…!!」

勉学以外に使わない脳を全力で使って考えた結果、未来が導き出した答えは…

 

「うおおおおおっ!!待ちやがれぇぇぇぇっっ!!」

「なっ!?」

全力で走り、とにかく追いつく事を優先することだった。

この際他の生徒にぶつかっても構わない。無関係な人が怪我をしても後で責任をとればいい。今は目の前の目標に迫る事だけを考えろ―未来はそう言い聞かせながら怒号とともにエルリーナへと全力で走った。

「エルううううううううリーナあああああああああああああ!!!」

「くそっ!ばれたか!」

エルリーナの表情には先ほどまでは窺えなかった焦りの気持ちが見える。体格の違い、スカートの長さの違い、走る気力の違い…様々な差によって二人の距離はどんどん狭まっていく。ただ、未来の頭の中では全力を出すことに必死であった中、あることに気づいた。

「(もう少しでアイツに手が届く範囲に入れる…!もっと急げ…!また誰かを操られる前に…!……

 

 ……?

 

 また…誰か……

 

 …………

 

 誰も…進路をふさいでこない?

 なんで操らない?

 …違う、操れないのか?じゃあどうして?

 まわりはまだ生徒が何人もいる。何か違うのか…?)」

そう、先ほどまでの周りとはわけが違った。

未来がむやみやたらと騒いだせいで、

道ゆく全員が二人の追いかけっこに注目していたのだ。

「お、あれって一年のエルちゃん?」

「あの叫んでるの誰?」

「あっ!新入生の子じゃない?こないだ委員長さんに怒られてたあの」

「グウウッ…!目立ってる…!」

エルリーナはひどく焦っていた…。そう、彼女のアビリティ『アリペッコ』はエルリーナ自身に注視している人には発動できないのだ。もちろん未来はそんなことを知る由もなく、ただラッキーだと考えていた。

「(どういうことかわかんねえが…これは好都合だ!ラストスパートをかけるぞ!)」

「うおおおおおおおおおおおっっ!!」

未来が全力で走る。そしてついに、エルリーナに触れられるまでに近づくことができた。

その後はあっという間であった。未来はエルリーナの肩に手を添え、体重を思い切り手にかけた。アビリティで強化された押さえつけにより、エルリーナもバランスを崩す。そして仰向けに倒れてしまった体を起き上がせようとエルリーナがうつぶせに姿勢を変えた瞬間、背中へズシンと未来に膝をつかれた。そしてそのまま床に押さえつけられてしまうのであった。

「グオオッ…!どけテメェ!!」

「おいそこの野次馬ども!委員長のさやか呼んで来い!」

未来が周りに3人ほどいた生徒たちに叫び散らすと、生徒たちは怯えながらもさやかのクラスへと走り出した。しかし、生徒たちが意識をさやかの部屋に向けたその時、

「グッ…行かせるかよォ!」

エルリーナが去りゆく生徒たちへと能力を使い、足を止めさせてしまった。無論足止めだけでなく、生徒たちを連れ戻し、未来を上からどうかそうと操りだしたのだ。しかし…

「ぐおっ…お、重ッ…!」

エルリーナの上に片膝立ちでたたずみ、床に手を置いているだけの未来を、操られた生徒たちはどかすことができなかった。3人掛かりでも動かせないほど体重が増しているのだ。

もちろんそこまで増やした体重に、エルリーナの小さな体は長時間耐えられるはずもない。

「グ…うあぁ…!!」

エルリーナの背中がミシミシと音を立てる。激痛に晒され、さらに背中から肺や心臓が圧迫されている。エルリーナは次第に意識が薄くなっていき、そしてぐったりと失神してしまった。

「…骨折はしてない…よな?」

未来がそんな心配をしていたとき、主人の意識がなくなったからか、操られていた生徒たちは我に返った。

「えっ…?これは…」

「っ!早くさやかを呼んで来いと言っただろう!保健室に居ると伝えろ!!」

「あっ、はい!」

ふたたび未来に叫び散らされ一目散に去っていく生徒たち。それを見送った未来は動かなくなったエルリーナを担いで保健室へと向かうのであった。

 

続。