異常学園~アビリティエ~ #2-1

#2-1「今日から友達だよ」

 

前回の騒ぎが起きた次の日…

因は心配そうな表情でさやかに昨日の話を聞いていた。

「さやかちゃん…あの子、さやかちゃんが殴ったっきり動かなかったけど大丈夫かな…?」

「未来なら大丈夫よ。そこまでたいした怪我じゃないわ。それに、ちゃんと保健室に送っておいたから安心して」

それを聞いて因は安心し、大きく息をつく。

「あぁ…ならよかった…。でもさ、あの子の言ってた『能力』ってなんなの?さやかちゃんもなんか知ってそうだったというか…使ってたっぽいけど…」

「ふふふ…焦らなくとも教えてあげるよ」

さやかはくすくすと笑うと、『能力』について話しくれた。

「まず、この能力のことを私達は『アビリティ』って呼んでるの。未来さんがどう呼んでるかは知らないけどね」

「アビリティ?名前つけてるの?」

因は眉間にしわを寄せる。内心痛いやつだと思っているのだろう。

「もちろんよ。一言に『能力』って言ったって身体能力や計算能力とかみたいなのもあるんだから、アビリティ能力って呼んで分けてるのよ」

「そうなんだ…で、そのアビリティであの子は校舎を壊そうとしてたんだね?」

「そういうこと。ちなみに、彼女のアビリティ名は『エンバランス・ガリレイ』。見たとおり自分の体重をある程度操作できる能力よ」

「えっ?さらに個別の名前がついてるの?」

因がふたたび眉間にしわを寄せる。

「そうなのよ。アビリティが発動したときにふっと本人の脳裏に言葉がよぎるのよ。で、それを口上で区別しやすいように名前として使うの。『誰々のアビリティ』なんて呼び方しなくて済むし」

「へぇ…それで、さやかちゃんのアビリティの名前はなんだったの?」

それを聞いたさやかは、待ってましたと言わんばかりに微笑む。

「私のアビリティ名は『ジャスティジョーカー』。ほかのアビリティを無効化することができるわ。」

「へぇ、無効化」

「でもそれができるのは基本的に触った時だけ。応用も結構きくけど、ちょっと頑張るとかなりエネルギーを使うから…だいたいは触ってから攻撃するだけよ」

「エネルギーを使う…もしかしてダイエットに活用できるかもよ?」

「んもう、美しい体になる事と痩せこける事は違うのよ?」

さやかが因の冗談にくすくすと笑う。

「因ちゃんと話してると楽しいわ…今まで以上に学校が楽しくなる」

急なことを言い出すさやかに因はちょっと驚いた。

「へぇ、あたしと話してると?それってさすがに大げさすぎない?というかあってまだ初日だし」

「いいえ、大げさじゃないわ。必ずこれからが楽しくなる…そんな気がするの」

「ふぅん…それもアビリティってやつ?」

「もうっ、因ちゃんったら!」

「はは、ごめんごめん」

談笑する二人の姿はとても楽しそうであった。

すると、突然因は突然立ち上がって教室のドアに眼差しを向けた。

「でもさ、あたしは他にも居てほしい人がいるかな…」

「居てほしい人?誰かしら?」

「……未来さんが…」

「未来?…じゃあ、保健室行って様子見ようか」

さやかにその意図はわからなかったが、まあ因が言うならと同行することにした。

 

―保健室

 因がそっと扉を開ける。そこには、ふてくされた顔でベッドの上で上体を起こす未来の姿があった。

「…未来さん?」

「何しに来た」

小さい声で話す因に未来は冷たい返答をする。さやかは全く動じずに会話を進めた。

「そんな怖い声を出さないでよ。あなたの看病をしにきたつもりよ?」

「けっ…お前がやったくせにどういうつもりだ」

冷たいを越して嫌味になりつつある未来の返答に、さやかはムッとしながら口を続ける。

「どうもこうもなにも、あれは単に風紀委員としての仕事をまっとうしただけよ」

「暴力をふるって風紀をまっとう!?面白くねえ冗談だな!」

「あなたが校舎を壊そうとするからいけないんじゃないの」

「自分の風紀を邪魔する奴は全部ぶっ潰して終わりか!まるで独裁だね!!」

「私が独裁者だったならそんな減らず口を二度と開けないようにしているところよ」

「二人ともやめてよ!なに喧嘩してるの!」

場の雰囲気が悪くなっている。すると、さやかは深く息をつき、落ち着いた目で口を開いた。

「…そうね。私が手荒に止めたのが悪かったわ。ごめんなさい」

「やけに潔く引き下がるな…」

「あくまで風紀を守るのが私の役目。自分から乱すわけにはいかないもの」

「ふぅん…真面目っていうかなんだかな…」

うれしい方向に事を運んでくれたが、切り替えの早さに因は目を丸くしていた。

「さ、さやかちゃん…すごいクールダウン早いね…」

「ふふ、頭を冷やすのは得意なのよ。だてに『さわやか系女子』を名乗ってないわ」

「あはは…」

意味がわからない。さわやか系女子を自称された因は笑うしかなかった。そんな思いも知らず、さやかは話を次へと続けた。

「それより因ちゃん、なにか話があったんじゃないの?」

「あ、ああそうだった…未来さんに話があるの」

「私に…話?」

未来は、因が自分に話す用事の心当たりが全くないので不思議そうな顔をしていた。

「よかったらだけど…あたし達と友達になってほしいなって思って…」

「友達…??」

未来が唐突な流れの変わりようにきょとんとしている。

「あ、答えは今すぐじゃなくてもいいんだ!ただ、寂しいかなって思って…」

あたふたする因にさやかが優しく話しかける。

「ふふ…転校初日に思い切ったこと言うわね。でも友達っていうのは約束してなるものじゃあないと思うわ」

「うっ…それもそうだけど…」

「もっと明瞭な関係から始めればいいのよ」

「明瞭って言ったって…」

「そうね…じゃあ因ちゃん、未来さん、二人とも私の所属する風紀委員に入りなさい」

「「え!?」」

さやかの思いきり…というより、吹ッ飛んだ提案を聞いた因と未来は目を大きくして驚いた。

「風紀委員って…お前そんなの転校したてのやつに…!しかもあんなことやった私に任せるってのかよ!?」

「委員長は私だから出来る限りのサポートはするわ。それに、因ちゃんが友達になりたいって言うんですもの。十分信用に値する」

「信用って…私と同じ転入生だったはずの江西がいったいお前の何なんだよ…」

「それはヒミツ」

ニコニコと無理矢理気味に話を進めるさやかだったが、因はそれに助けられホッとしていた。

「よかった…仲良くやっていけそう…」

「お前はどこをどう見て…はぁ…まあいいや。それじゃあ江西、…よろしくな」

半ば投げやりかのように挨拶を交わす未来。因はその受け答えにニッコリと笑う。

「うん!よろしくね、きーちゃん!」

「きーちゃん!?」

「あ、急にごめんね?でも未来(きたらず)さんじゃ言いにくいじゃない?だから言いやすい呼び名考えてたんだ」

「は、はぁ…」

未来本人は初めての呼び名に気が動転していたが、悪い心地はしていなかった。

「それで、因ちゃんと一緒に入る決心はついた?『きーちゃん』?」

「お前まで…」

新たな呼び名でおちょくるさやかに複雑な顔をした未来だが、彼女らのペースに疲れてしまったのかすっかりおとなしくなってしまった。

「…わかった。入ってやろうじゃない」

腹をくくった彼女の答えを聞き、さやかはニッコリと微笑んで因と目を合わせた。因もその答えに内心から喜んでいる。

「よかった…!私、きーちゃんが全快するの待ってるよ!」

「いーや、待つ必要はないさ」

未来はすっとベッドの上から立つと、それを見せつけるように因の方を向いた。

「えっもう!?だってあんなに強く壁にあたったのに…!」

「顎をおもいきり叩かれたのは痛かったけど、吹っ飛んでる間はけっこう能力の自由が効いたからな」

理屈はよくわからないが、自分の体重操作で壁にぶつかるときの衝撃を和らげたらしい。

「えっと…無事なら大丈夫…だね?」

フォローしてるのか混乱してるのかわからない言動の因を横目に、さやかが微笑みながら未来に話を切り出す。

「そう…もう大丈夫なら都合がいいわ。未来さん、早速だけどあなたに風紀委員としてやってほしい仕事があるの。付いてきて」

さやかはそう言いながら保健室を出てどこかへ歩き出した。

「私にか?…わかった」

未来も不思議そうな顔をしながらその後を追うように保健室を出る。

「きーちゃんに仕事?」

その内容が気になる因も、自然と二人の後をつけていった。

 

続。